運動技能の練習の直後に、心臓に負荷を掛ける運動をすると運動技能の定着が向上する

画面上のカーソルの動きを目で追いながら、レバーを操作するタスクを行った直後に、心臓に負荷を掛けるエクササイズを行うと、運動記憶の定着により運動技能が向上することがわかっている。一方でその神経メカニズムはわかっていない。本研究ではそのメカニズムの解明を試みた。

被験者は下記の順でタスクを行う

  1.  ハンドグリップタスク(被験者は利き手の最大随意筋力のちょうど15%の力でレバーを倒すように訓練する)
  2.  運動技能タスク(画面上に赤い四角のターゲットがランダムに並べられ、左から右に自動的にゆっくりカーソルが動く。レバーを操作する強さによってカーソルが上下に動くので、カーソルが赤い四角に重なるように、レバーに加える力を強めたり弱めたりする)
  3.  心臓に負荷をかけるエクササイズを15分間行うか、15分間休憩する
  4.  30分後、60分後、90分後に再度ハンドグリップタスクを行う
  5.  8時間後と24時間後に、2.で習得した運動技能タスクを再度実行する

被験者は、3.でエクササイズを行うグループと、休憩するだけのグループのどちらかに割り当てられ、エクササイズの効果を比較した。

エクササイズは、エアロバイクを漕ぐ運動を行う。最初に50ワットの負荷で2分間ウォーミングアップを行い、最大酸素摂取量の90%の負荷で3分間の運動を、50ワットの負荷で2分間の軽度負荷の運動をはさんで3回行う。
更に、ハンドグリップタスクと運動技能タスクを行っているときにEEGを計測する。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの運動技能の習得の違い

8時間後に運動技能を計測したときは、エクササイズを行ったグループ、休憩しただけのグループともに、運動技能が低下しておりグループ間に差はなかった。
24時間後に再度運動技能を計測したときは、どちらのグループも運動技能は向上しており、エクササイズを行ったグループは休憩したグループより技能が高かった。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの脳波の違い

エクササイズを行ったグループでは、休憩したグループと比較し、左の運動感覚野の領域の電極で、β帯の事象関連脱同期(event-related desynchronization; ERD)の減少と、左右の運動感覚野におけるα帯、β帯(特にβ帯)の機能的結合が強まっていた。

脳活動の変化と運動技能との関係

エクササイズを行ったグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、左の前頭葉と右の感覚運動野におけるβ帯のERDとが正の相関をしていた。
一方で、休憩したグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、右の前頭葉におけるβ帯のERDとが負の相関をしていた。

より効率的・効果的な運動スキルの習得方法に向けて

練習をしたあと、更にエアロバイクで苦しくなるほど漕ぐと、練習した運動スキルの定着度が高まることは、本人は辛いが実用の面で導入しやすく、効果検証もしやすい。
このような介入方法により、スポーツ選手の能力を効果的に伸ばせるとしたら、面白いのではないだろうか。

Referenes:

Fabien Dal Maso et al., Acute cardiovascular exercise promotes functional changes in cortico-motor networks during the early stages of motor memory consolidation. NeuroImage. Volume 174, 1 July 2018, Pages 380-392