今回は、こうした睡眠とアルツハイマー病の結びつきを明らかにした動物実験を紹介する。
寝不足時に蓄積するアルツハイマー病リスクタンパク質・アミロイドβ
寝不足のマウスやヒトの脳には、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が沈着していることがわかってきている(Meyer-Luehmann M et al., 2008, Nature; Ehsan S et al., 2018, PNAS)。アミロイドβはアルツハイマー病のリスクとも言われ、睡眠不足とアルツハイマー病の関係が近年調べられている。Xieらが2013年に行った研究では、具体的に睡眠がアミロイドβの沈着量とどう関係するか、マウスを用いた実験で検証された。
動物実験:睡眠・麻酔時は覚醒時よりアミロイドβが2倍除去されやすい
実験ではマウスの脳にアミロイドβが注入された。その後脳内のアミロイドβ沈着量がどう変化するか、以下の3条件で比較された。
- 睡眠させた条件
- 覚醒させ続けた条件
- 麻酔(ケタミン・キシラジン)を投与した条件
結果、睡眠・麻酔したマウスは、覚醒したマウスの2倍、脳内のアミロイドβが減少していた。このアミロイドβの減少量は、細胞間隙(脳細胞の隙間)がどのくらい広がっていたかと関係していた。具体的には、睡眠や麻酔をしていたマウスの細胞間隙は、覚醒していたマウスの1.6倍広がっていた。さらに、ノルアドレナリン受容体を阻害しても細胞間隙は広がった(ただし睡眠時よりゆるやかで、広がる程度も30%程度)。したがって、ノルアドレナリンが細胞間隙の制御に関わっていることが示唆された。
以上の結果は、睡眠不足でアミロイドβが増加するとした先行研究と合致していた。アミロイドβの除去には、glymphatic system(注:グリア+リンパを組み合わせた造語)が関わっているとされており、睡眠で脳の隙間が広がり、gllymphatic systemの不要物質除去作用を促進していると考えられた。
ノルアドレナリンが脳の隙間を1.6倍に広げ、不要タンパク質除去を促進する
今回の研究から、以下の示唆が得られた。
- マウスの睡眠時・麻酔時には覚醒時の1.6倍ほど脳の隙間が拡張する。
- マウスの脳の隙間が拡張すると(glymphatic systemなどの)不要タンパク質除去作用を2倍ほど促進する。
- マウスの脳の隙間の制御にはノルアドレナリンが関わっている。
ただし本研究はマウスの実験であり、示唆にも「マウスの」と但し書きを付けざるを得ない。この研究が、「人間の」アルツハイマー病発現リスクや予防に繋がる日が待ち遠しい。