科学雑誌Neuronから出されたウェラブル脳科学デバイスに関する記事が話題になっています。ブレインテック事業に関わっている方にも倫理面の話が必須になってきていると思いますので、何が書かれているのか読み解きたいと思います。
科学雑誌Neuronから出されたウェラブル脳科学デバイスに関する記事が話題になっています。ブレインテック事業に関わっている方にも倫理面の話が必須になってきていると思いますので、何が書かれているのか読み解きたいと思います。
近年、ウェアラブル脳科学デバイスは驚異的に成長していますが、Neuronに掲載された記事の著者らは「デバイスを販売している企業は倫理あるイノベーションを行うべき」と主張しています。
脳神経科学の倫理面については、海外の脳神経科学の学会やBMI(Brain Machine Interface)のカンファレンスではNeuroethics(脳神経倫理学)と呼ばれ重要なテーマの1つになっています。Neuronの2019年2月6日号でもNeuroethicsが特集されています。
ただし、このNeuronの記事の著者らが各製品の技術の背景となっている論文を精読した形跡はありません。あくまでも製品に関する論文があるのかないのか、また掲載された論文誌のレベルの評価、ウェブサイトなどに書かれている情報の分析に留まっている点にご注意ください。
それでは記事にはどのようなことが書かれているのでしょうか。
以下の4つのことが語られています。
- ウェアラブル脳科学デバイスを作っている企業の倫理面について(各企業のデバイスが怪しいかどうか判定しているわけではない)
- 各企業が主張していることは科学的なエビデンスに基づいて主張されているのか
- メリットだけではなく、それに伴うリスクについても併記されているのか
- 効果が証明されていないことまで、企業は効果があると主張していないか(例示があるだけでNeuronの著者らが詳しく調べているわけではない)
従って、Neuronの著者らが一つ一つのデバイスについて調査したり、また各企業が引用している論文の正しさを検証しているわけではありません。(Peer Reviewがある論文なのかどうかを調べている程度はしています)
それでは、具体的な内容についてまとめます。
【今回の調査対象デバイス】
- 消費者用の41製品を選定。22は記録装置(EEGなど)、19は刺激装置(tDCSなど)
- ウェルネス・強化・健康・その他(BMIや眠気検知など)の4つに大きく分類
- 誰が使用するかという対象マーケットが明確化されている32製品については、「高齢者、スポーツ、子供」など対象マーケットを11に整理
【調査結果1】信頼性について(関連研究や記事の存在)
- 33製品は製品の効果に関する研究や記事が確認できたが、残りの8製品については確認できず
- 8製品は、1つ以上の査読済み論文に裏付けられていた
- 8製品以外は「一般にtDCSは認知機能を改善する」などの概論にとどまり、自社製品との関連性について明確な説明はなかった。あるいは、査読なし論文や自社研究など、信頼性が高いとは限らない研究に基づいていた。
【調査結果2】リスクや安全性に関する説明について
- 21製品はWebサイトにリスクや注意事項の記載がなく、購入前の時点では注意すべき点が一切わからなかった
- Webサイトに記述がある場合は、可能性のある副作用として「不快感、皮膚への刺激、疲労感、頭痛」などが書かれていた
- NeuroSky社のMindWaveなど数社だけが安全性(このデバイスは使用しても問題ない、安全であるという意味)に関する主張を明確に行っていた
【著者らの主張や考えのまとめ】
- 根拠なき主張・企業側の研究の拡大解釈などへの懸念
- 優れたビジネス倫理には、自社研究を行い製品の効果の主張の裏付けをとり、誠実なマーケティングし、規則を遵守することが必要である。
- 一般論を用いて、自社製品の効果を証明したかのように消費者を誤解させてはいけない。例えば、tDCS製品を販売している企業は、「tDCSは脳機能を強化できる優れた方法である」といった一般論の引用のみで、自社製品にも効果があるように宣伝をしてはならない。
- 健康効果を明確に謳う製品を販売するのであれば、該当する機関(FDAなど)の認証を受けた上で行うべきである。
- 企業の主張のとおりに機器の効果があるとしても、利用者の使い方を制御できないため安心とは断言できない
- 例えばtDCSは長期間・高頻度で使ったときの研究が殆どない。tDCS製品は、ユーザの自己判断で、より強い電流を長時間流すかもしれないが、それを防ぐ手立てがない(※neumo注:tDCS製品の中には、ybrainのように電流の強さや流す時間などをユーザではなく医師しか設計・定義できないようなコンシューマ機器を開発している企業もある)。
- 今回の調査では、安全な使い方、リスクや警告、悪影響などの情報がサイトに載っていなかったため問題である。
- とはいえ、科学的根拠に基づく実用・安全・有効性が担保されれば、非常に優れた分野である。
倫理的配慮は「市場化・発展を進めるため」にこそ必要
将来性があるウェラブル脳科学デバイスがさらなる発展を遂げるためには、科学的な根拠に対して真摯に取り組み、安全面についても配慮し情報もきちんと開示する必要があるという至極真当な指摘になっています。
今回のNeuronの記事に限らず、学術的な世界で既に行われているこうした倫理的配慮が産業界にも取り入れられていくことで、より健全な市場の発達が促進されるのではないかとneumoでは考えています。
引用
Owning Ethical Innovation: Claims about Commercial Wearable Brain Technologies: I. McCall et al., 2019, Neuron.
科学雑誌Neuronから出されたウェラブル脳科学デバイスに関する記事が話題になっています。ブレインテック事業に関わっている方にも倫理面の話が必須になってきていると思いますので、何が書かれているのか読み解きたいと思います。
科学雑誌Neuronから出されたウェラブル脳科学デバイスに関する記事が話題になっています。ブレインテック事業に関わっている方にも倫理面の話が必須になってきていると思いますので、何が書かれているのか読み解きたいと思います。
近年、ウェアラブル脳科学デバイスは驚異的に成長していますが、Neuronに掲載された記事の著者らは「デバイスを販売している企業は倫理あるイノベーションを行うべき」と主張しています。
脳神経科学の倫理面については、海外の脳神経科学の学会やBMI(Brain Machine Interface)のカンファレンスではNeuroethics(脳神経倫理学)と呼ばれ重要なテーマの1つになっています。Neuronの2019年2月6日号でもNeuroethicsが特集されています。
ただし、このNeuronの記事の著者らが各製品の技術の背景となっている論文を精読した形跡はありません。あくまでも製品に関する論文があるのかないのか、また掲載された論文誌のレベルの評価、ウェブサイトなどに書かれている情報の分析に留まっている点にご注意ください。
それでは記事にはどのようなことが書かれているのでしょうか。
以下の4つのことが語られています。
- ウェアラブル脳科学デバイスを作っている企業の倫理面について(各企業のデバイスが怪しいかどうか判定しているわけではない)
- 各企業が主張していることは科学的なエビデンスに基づいて主張されているのか
- メリットだけではなく、それに伴うリスクについても併記されているのか
- 効果が証明されていないことまで、企業は効果があると主張していないか(例示があるだけでNeuronの著者らが詳しく調べているわけではない)
従って、Neuronの著者らが一つ一つのデバイスについて調査したり、また各企業が引用している論文の正しさを検証しているわけではありません。(Peer Reviewがある論文なのかどうかを調べている程度はしています)
それでは、具体的な内容についてまとめます。
【今回の調査対象デバイス】
- 消費者用の41製品を選定。22は記録装置(EEGなど)、19は刺激装置(tDCSなど)
- ウェルネス・強化・健康・その他(BMIや眠気検知など)の4つに大きく分類
- 誰が使用するかという対象マーケットが明確化されている32製品については、「高齢者、スポーツ、子供」など対象マーケットを11に整理
【調査結果1】信頼性について(関連研究や記事の存在)
- 33製品は製品の効果に関する研究や記事が確認できたが、残りの8製品については確認できず
- 8製品は、1つ以上の査読済み論文に裏付けられていた
- 8製品以外は「一般にtDCSは認知機能を改善する」などの概論にとどまり、自社製品との関連性について明確な説明はなかった。あるいは、査読なし論文や自社研究など、信頼性が高いとは限らない研究に基づいていた。
【調査結果2】リスクや安全性に関する説明について
- 21製品はWebサイトにリスクや注意事項の記載がなく、購入前の時点では注意すべき点が一切わからなかった
- Webサイトに記述がある場合は、可能性のある副作用として「不快感、皮膚への刺激、疲労感、頭痛」などが書かれていた
- NeuroSky社のMindWaveなど数社だけが安全性(このデバイスは使用しても問題ない、安全であるという意味)に関する主張を明確に行っていた
【著者らの主張や考えのまとめ】
- 根拠なき主張・企業側の研究の拡大解釈などへの懸念
- 優れたビジネス倫理には、自社研究を行い製品の効果の主張の裏付けをとり、誠実なマーケティングし、規則を遵守することが必要である。
- 一般論を用いて、自社製品の効果を証明したかのように消費者を誤解させてはいけない。例えば、tDCS製品を販売している企業は、「tDCSは脳機能を強化できる優れた方法である」といった一般論の引用のみで、自社製品にも効果があるように宣伝をしてはならない。
- 健康効果を明確に謳う製品を販売するのであれば、該当する機関(FDAなど)の認証を受けた上で行うべきである。
- 企業の主張のとおりに機器の効果があるとしても、利用者の使い方を制御できないため安心とは断言できない
- 例えばtDCSは長期間・高頻度で使ったときの研究が殆どない。tDCS製品は、ユーザの自己判断で、より強い電流を長時間流すかもしれないが、それを防ぐ手立てがない(※neumo注:tDCS製品の中には、ybrainのように電流の強さや流す時間などをユーザではなく医師しか設計・定義できないようなコンシューマ機器を開発している企業もある)。
- 今回の調査では、安全な使い方、リスクや警告、悪影響などの情報がサイトに載っていなかったため問題である。
- とはいえ、科学的根拠に基づく実用・安全・有効性が担保されれば、非常に優れた分野である。
倫理的配慮は「市場化・発展を進めるため」にこそ必要
将来性があるウェラブル脳科学デバイスがさらなる発展を遂げるためには、科学的な根拠に対して真摯に取り組み、安全面についても配慮し情報もきちんと開示する必要があるという至極真当な指摘になっています。
今回のNeuronの記事に限らず、学術的な世界で既に行われているこうした倫理的配慮が産業界にも取り入れられていくことで、より健全な市場の発達が促進されるのではないかとneumoでは考えています。
引用
Owning Ethical Innovation: Claims about Commercial Wearable Brain Technologies: I. McCall et al., 2019, Neuron.