December 07, 2018

[研究紹介]練習直後に心臓に負荷をかけると、運動スキルが定着しやすい

特にスポーツ選手は、効果的・効率的に運動スキルを磨くことが必要である。

スキルの習得・改善は、もちろん筋肉を鍛えることが必要であると同時に、その筋肉を自在に操ることができるよう、脳を鍛えることも必要である。
今回は、より効率的に運動技能を鍛えることにつながる可能性ある研究を紹介する。

運動技能の練習の直後に、心臓に負荷を掛ける運動をすると運動技能の定着が向上する

画面上のカーソルの動きを目で追いながら、レバーを操作するタスクを行った直後に、心臓に負荷を掛けるエクササイズを行うと、運動記憶の定着により運動技能が向上することがわかっている。一方でその神経メカニズムはわかっていない。本研究ではそのメカニズムの解明を試みた。

被験者は下記の順でタスクを行う

  1.  ハンドグリップタスク(被験者は利き手の最大随意筋力のちょうど15%の力でレバーを倒すように訓練する)
  2.  運動技能タスク(画面上に赤い四角のターゲットがランダムに並べられ、左から右に自動的にゆっくりカーソルが動く。レバーを操作する強さによってカーソルが上下に動くので、カーソルが赤い四角に重なるように、レバーに加える力を強めたり弱めたりする)
  3.  心臓に負荷をかけるエクササイズを15分間行うか、15分間休憩する
  4.  30分後、60分後、90分後に再度ハンドグリップタスクを行う
  5.  8時間後と24時間後に、2.で習得した運動技能タスクを再度実行する

被験者は、3.でエクササイズを行うグループと、休憩するだけのグループのどちらかに割り当てられ、エクササイズの効果を比較した。

エクササイズは、エアロバイクを漕ぐ運動を行う。最初に50ワットの負荷で2分間ウォーミングアップを行い、最大酸素摂取量の90%の負荷で3分間の運動を、50ワットの負荷で2分間の軽度負荷の運動をはさんで3回行う。
更に、ハンドグリップタスクと運動技能タスクを行っているときにEEGを計測する。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの運動技能の習得の違い

8時間後に運動技能を計測したときは、エクササイズを行ったグループ、休憩しただけのグループともに、運動技能が低下しておりグループ間に差はなかった。
24時間後に再度運動技能を計測したときは、どちらのグループも運動技能は向上しており、エクササイズを行ったグループは休憩したグループより技能が高かった。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの脳波の違い

エクササイズを行ったグループでは、休憩したグループと比較し、左の運動感覚野の領域の電極で、β帯の事象関連脱同期(event-related desynchronization; ERD)の減少と、左右の運動感覚野におけるα帯、β帯(特にβ帯)の機能的結合が強まっていた。

脳活動の変化と運動技能との関係

エクササイズを行ったグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、左の前頭葉と右の感覚運動野におけるβ帯のERDとが正の相関をしていた。
一方で、休憩したグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、右の前頭葉におけるβ帯のERDとが負の相関をしていた。

より効率的・効果的な運動スキルの習得方法に向けて

練習をしたあと、更にエアロバイクで苦しくなるほど漕ぐと、練習した運動スキルの定着度が高まることは、本人は辛いが実用の面で導入しやすく、効果検証もしやすい。
このような介入方法により、スポーツ選手の能力を効果的に伸ばせるとしたら、面白いのではないだろうか。

Referenes:

Fabien Dal Maso et al., Acute cardiovascular exercise promotes functional changes in cortico-motor networks during the early stages of motor memory consolidation. NeuroImage. Volume 174, 1 July 2018, Pages 380-392

特にスポーツ選手は、効果的・効率的に運動スキルを磨くことが必要である。

スキルの習得・改善は、もちろん筋肉を鍛えることが必要であると同時に、その筋肉を自在に操ることができるよう、脳を鍛えることも必要である。
今回は、より効率的に運動技能を鍛えることにつながる可能性ある研究を紹介する。

運動技能の練習の直後に、心臓に負荷を掛ける運動をすると運動技能の定着が向上する

画面上のカーソルの動きを目で追いながら、レバーを操作するタスクを行った直後に、心臓に負荷を掛けるエクササイズを行うと、運動記憶の定着により運動技能が向上することがわかっている。一方でその神経メカニズムはわかっていない。本研究ではそのメカニズムの解明を試みた。

被験者は下記の順でタスクを行う

  1.  ハンドグリップタスク(被験者は利き手の最大随意筋力のちょうど15%の力でレバーを倒すように訓練する)
  2.  運動技能タスク(画面上に赤い四角のターゲットがランダムに並べられ、左から右に自動的にゆっくりカーソルが動く。レバーを操作する強さによってカーソルが上下に動くので、カーソルが赤い四角に重なるように、レバーに加える力を強めたり弱めたりする)
  3.  心臓に負荷をかけるエクササイズを15分間行うか、15分間休憩する
  4.  30分後、60分後、90分後に再度ハンドグリップタスクを行う
  5.  8時間後と24時間後に、2.で習得した運動技能タスクを再度実行する

被験者は、3.でエクササイズを行うグループと、休憩するだけのグループのどちらかに割り当てられ、エクササイズの効果を比較した。

エクササイズは、エアロバイクを漕ぐ運動を行う。最初に50ワットの負荷で2分間ウォーミングアップを行い、最大酸素摂取量の90%の負荷で3分間の運動を、50ワットの負荷で2分間の軽度負荷の運動をはさんで3回行う。
更に、ハンドグリップタスクと運動技能タスクを行っているときにEEGを計測する。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの運動技能の習得の違い

8時間後に運動技能を計測したときは、エクササイズを行ったグループ、休憩しただけのグループともに、運動技能が低下しておりグループ間に差はなかった。
24時間後に再度運動技能を計測したときは、どちらのグループも運動技能は向上しており、エクササイズを行ったグループは休憩したグループより技能が高かった。

エクササイズを行ったグループと行わなかったグループの脳波の違い

エクササイズを行ったグループでは、休憩したグループと比較し、左の運動感覚野の領域の電極で、β帯の事象関連脱同期(event-related desynchronization; ERD)の減少と、左右の運動感覚野におけるα帯、β帯(特にβ帯)の機能的結合が強まっていた。

脳活動の変化と運動技能との関係

エクササイズを行ったグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、左の前頭葉と右の感覚運動野におけるβ帯のERDとが正の相関をしていた。
一方で、休憩したグループでは、24時間後の運動技能の上昇度と、右の前頭葉におけるβ帯のERDとが負の相関をしていた。

より効率的・効果的な運動スキルの習得方法に向けて

練習をしたあと、更にエアロバイクで苦しくなるほど漕ぐと、練習した運動スキルの定着度が高まることは、本人は辛いが実用の面で導入しやすく、効果検証もしやすい。
このような介入方法により、スポーツ選手の能力を効果的に伸ばせるとしたら、面白いのではないだろうか。

Referenes:

Fabien Dal Maso et al., Acute cardiovascular exercise promotes functional changes in cortico-motor networks during the early stages of motor memory consolidation. NeuroImage. Volume 174, 1 July 2018, Pages 380-392