大きな音を聞き続けることによって、内耳の蝸牛にある有毛細胞が損傷し、聞こえが悪くなることを騒音性難聴と言います。
有毛細胞は一度損傷すると再生することが困難なため、騒音性難聴は治療することが困難です。

研究者は、マウスの内耳にある感覚細胞、感覚細胞を支える支持細胞、神経細胞、感染症から守るための常在免疫細胞などが、騒音を受ける前と後とで遺伝子発現にどのような変化があるかを分析しました。
当初、研究者は、騒音(や加齢)に敏感な神経細胞は、騒音を受けると「悪い」変化があり、それが分かれば薬の開発につなげられると考えていましたが、そのような変化は見つかりませんでした。
逆に、騒音に対して強い神経細胞は、自分達を守るプログラム(=遺伝子)をオンにしていることが分かりました。

また、騒音による損傷を受けた細胞すべてで、免疫に関連している遺伝子が増加しており、その多くが調節因子2つで制御されていることが分かりました。

こういった遺伝子発現の傾向から、騒音による損傷を受けた細胞で起きている変化とは反対の変化を起こす薬剤を、分子反応データベースから探した結果、治療につながる可能性のある薬品の候補がいくつか見つかりました。

研究者は、工場労働者の騒音性難聴を予防するための薬などの開発につながる可能性があると述べています。

Milon, Beatrice et al. A cell-type-specific atlas of the inner ear transcriptional response to acoustic trauma. Cell Reports, Volume 36, Issue 13, 109758